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12年ぶりの再会

 

その他
2001.01.26 「12年ぶりの再会」
1月7日、モロッコでばったり会った横田隊長とアラン・ピアテック。彼らは12年前、パリから南アフリカのケープタウンまで、アフリカ大陸を縦断するパリダカでのチームメイト。横田隊長が率いる競技車を、アランの乗るカミオン(チェコ・TATRA製トラック)がサポートし、見事完走した戦友である。お互い久しぶりの再会に固い握手をし、懐かしむのもつかのま、すぐにお互いの話をしはじめる。

今回アランは、パリダカを撮影しているフランス・2,3チャンネルの撮影機材を、アタールの街でピックアップし、ダカールまで届ける仕事を受けている。幸いなことに、今回のエコミッションのルートで最大の難所といわれるモロッコ・ダクラからモーリタニア・ヌアクショットまでの約900kmを、この6輪駆動車のカミオンと同行することになる。エコミッションにはランドクルーザー・プラドという頼れるサポートカーがあるが、これに仲間のカミオンが同行することで、プリウスのサハラ砂漠縦断成功の確信を持った。

翌日モロッコ出国の手続きをする。国境の街ダクラは、西サハラ(旧スペイン領西サハラ)を事実上支配下におくモロッコ軍最重要拠点で、ダクラ以南の立ち入りには、サハラ通行特別許可書(Autorisation de Transit des Sahariennes)が必要となる。西サハラは現在も独立を望むポリサリオ(西サハラ解放戦線)とモロッコ軍が対峙しており、国連軍が派遣され、両者の衝突を防いでいる。モロッコとモーリタニアの国境越えは、事実上このルートしかない。そしてダクラで許可書を取り、警察にて出国手続き、カルネ申請をすると、軍隊がパスポートをすべて保管し、このコンボイに同行する。

9日、エコミッションチームと、アランのカミオン、そしてスペインから飢餓で混乱しているギニアビサウへ救援物資を運ぶNGOのカミオン4台とコンボイを組み、モーリタニア国境へ向けて走る。この日は国境手前で日が暮れたため、入国は明日に持ち越される。その夜は今世紀初の皆既月食で、真っ暗なキャンプ地から、満月の月が徐々に欠け、赤みを帯び、数十分でまるで月の亡霊のような鈍く、弱々しい光を放つ天体へと化けるのを見た。代わりに夜空は満天の星となり、このスペクタクルをキャンプ地にいた人すべてが、ただ言葉もなく見つめ続けていた。そしてモーリタニア入国の朝を迎える。

「夜明けのカーテンが上がると、またしても僕には舞台が空虚に見えた。影もなければ奥行きもない舞台。あの砂山も、あのスペイン保塁も、あの砂漠も、どれもみんな千年も前からそこにあるように思われる。(中略)ここにいると、言葉までもが少しずつ人間的意味を失って、ただ砂だけがその内容を持つように変わっていた。」(堀口大学訳)と処女作「南方郵便機」に書いたサン・テグジュペリが見た光景と同じ景色が、朝日とともに現れてきた。昨日は2便のコンボイが出たため、入国を待つクルマの数は139台に増えていた。横田隊長、谷隊員、アランのすばやい行動で、絶えずプリウスはコンボイのほぼ先頭に並ぶ。プリウスの前には、アランの大きなカミオン、すぐ後ろにはサポートカーのランドクルーザー。万全の体制で列に並んでいたところで、軍隊からパスポートが返却される。約2日ぶりに自分を証明してくれる唯一の証書が返ってきたのだ。そしてここからはモーリタニア軍に先導され、入国手続き地点まで1台ずつ走り出す。

「ついにモーリタニアに入れるなぁ。」と横田隊長が、無線を通じてランドクルーザーへ呼びかける。しばらくの沈黙のあと、ランドクルーザーに乗る茅原田隊員から「ガッガー・・僕だけパスポートに出国のスタンプがないので、今、モロッコの軍隊に止められています。」と無線が入った。プリウスに乗る横田隊長と寺田隊員は一瞬言葉を失ったが、まあ139台もいるのだから、そのうち通してもらえるだろうと思い「こちらは一本道なのでゆっくり進んでいます。」と横田隊長が返答する。国境というものは、一度出国してしまうと、簡単にもとに戻ることはできない。プリウスに乗る二人は、ただランドクルーザーに乗るスタッフが無事に出国してくれることを祈るしかなかった。

しばらくランドクルーザーからの呼びかけがないため「現在の状況はどうですか。」と横田隊長が無線で呼びかける。すると「ガッガー・・ザァ・・・まだ、止め・・ています。」と雑音まじりの茅原田隊員の声が無線から届いた。すかさず横田隊長が、

「プリウスはこのままゆっくりヌアディブに向かいます。聞こえますか、いいですか。」
と問いかける。
「ガッガー・・・ザッザァー・・・・了・・解しま・た。ザー・・・こち・・も許可が取れしだ・・ヌアディブに向かい・・・ザーーーー・・・・。」
「聞こえますかーー。」
「ザッザ・・・・・・・・。」

これがプリウスとランドクルーザーの最後の無線交信であった。プリウスに乗ってモーリタニアに入った横田隊長と寺田隊員、一方まだモロッコから出国できないランドクルーザーに乗った松前、谷、茅原田、三角隊員。2台の間は、ただ細かい砂が舞う時の止まった空間となった。
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